ケーススタディ:シンガポール航空でのエンプロイヤーブランディング

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シンガポール航空を象徴する「シンガポールガール」キャンペーンは、1972年にある意味実験的マーケティング活動としてスタートしましたが、今や広く知れ渡り、世界でも息の長いブランドアイデンティティとして知られています。

遡ること1970年代、多くの航空会社は機体のパワーとスピードの売り込みに力を注いでいましたが、シンガポール航空は機体ではなくスタッフの人となりやおもてなしにスポットライトを当てることによって、より強力にブランドを打ち出し、差別化する方法を編み出しました。

従来に増して収容能力が高まり、競争が激化する地域市場、世界市場において、シンガポール航空は一流ブランドとして秀でた存在であり続けています(航空業界のアカデミー賞と称される2015年World Airline Awardsのビジネスクラス部門第1位、全体で第2位を獲得)。

人材獲得においても特徴的魅力を持つ同社の人材担当シニアバイスプレジデント、クリストファー・チェン氏にグループのビジネスブランドとエンプロイヤーブランドとの近しい関係性と、優秀な人材獲得のためのパイプラインの維持についてお話を伺いました。

 

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1972年、マレーシア・シンガポール航空が現在私たちが知るシンガポール航空とマレーシア航空に分割されました。多くのナショナルフラッグキャリアと異なり、シンガポールは比較的人口が少なく(当時およそ200万人)、つまり収益を維持するために国内需要に頼ることができませんでした。

よって同社は国際舞台での勝負を余儀なくされました。競合他社の多くは乗客を目的地までいかに速く送り届けることができるか、スピードを軸にしたマーケティングキャンペーンを展開し、事実、当時の広告キャンペーンの一つは客室乗務員の台詞が「私と過ごす時間が短いほど素晴らしい」というものでした。

シンガポール航空は常に業界の中でも燃費の良い最新鋭機材で運航していますので、競合他社と同様、パワーを売りにしたマーケティング戦略を選択することに問題はありません。

にもかかわらず、同社はこれを集団から抜け出すチャンスと捉え、人、サービス、乗客とのつながりをコンセプトにした他社と一線を画すソフトなアイデンティティを構築する決断をしました。

その結果生まれたのが「Singapore Girl, you’re a great way to fly」キャンペーンです。これをきっかけにシンガポール航空は地域航空会社から世界で最も評価の高い旅ブランドへと進化を遂げ、現在では世界30カ国、60都市に就航し、年間1,800万人を超える乗客を運んでいます。

 

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チェン氏は次のように話します。「『シンガポールガール』はシンガポール航空独自のサービスブランドと、一層の努力をする私たちの心構えの象徴です。この基準を維持するために多大な配慮とリソースを費やしています。当社は明るく、フレンドリーでお客様に共感できる人材を求めています。

幸いにもサステナブルなエンプロイヤーブランドを構築でき、多くの人にとってシンガポール航空の客室乗務員は夢の仕事です。多くの人が世界に知られるチームの一員として飛びたいと憧れを抱いています。つまり応募者数が募集件数を上回り、人材の厳選が可能であることを意味します。

人材育成、人材のエンパワーメント、素早い判断を促す姿勢の点で当社は評判が高く、だからこそ優秀な人材を常に確保できています。客室乗務員の大卒者率が高いこともその一つです」 

 

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シンガポールの失業率の低さと労働市場の競争の激しさにもかかわらず、シンガポール航空は年間600~900人の客室乗務員採用に対して平均で1万8,000人が応募します。

客室乗務員チームの80%以上がシンガポールまたはマレーシア出身者、残りが他のアジア諸国出身者です。エンプロイヤーブランドの魅力の高さはシンガポール企業を対象にしたランスタッドアワードで最も働きたい企業に選ばれた回数に表れ、2012年から2014年にかけて3年連続で選出されたことから、ランスタッドアワードの殿堂入りを果たしました。

 

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事情を知らない人にとっては、「シンガポールガール」というブランドアイデンティティがシンガポール航空を含め現代の企業が力を入れている平等と調和していないように見えるかもしれませんが、チェン氏は「シンガポールガール」は特定のジェンダーを表しているのではなく、何よりも「広く知られたサービスのシンボル」であると強調します。

「当社の男性客室乗務員も同じ厳しい選考を経て選ばれ、同じ厳しい訓練を受けます。そしてアイデンティティと調和する行動を同様に十分意識しています。客室乗務員も地上職員もお客様を第一に考える大切さを認識しています」

シンガポール航空は現在は必要な人材を集められていますが、専門家が今後20年で航空需要が3倍あるいは4倍に増加すると予測する中でその動きについていくためには、パイロット、地上職員、ビジネスサポート、イノベーション、サステナビリティチーム、そしてもちろん客室乗務員も、十分に質の高い人材を確保することが今後の課題となります。

一番の成長原動力はアジアで急速に拡大する中間層です。「成長し、急速に変化する市場において当社は、金銭的報酬だけではない、教育研修、育成、評価、長期的キャリア機会を中心に構築した魅力ある従業員価値提案を維持する重要性を認識しています」

 

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厳しい基準

シンガポール航空は教育研修に多大なリソースを投じています。採用された客室乗務員は業界の中でも長く、総合的な15週間の初期訓練を受けます。

大きさも装置も実物と同じ機材が置かれたトレーニングセンターで行われる研修には、ワインのマナーから文化の違いに対する配慮まで乗客にサービスを提供し、関係性を築くためのあらゆる要素が含まれています。そしてキャリアを通じて、顧客に対する新しい取り組みに対応するためのリフレッシュ研修を定期的に受講します。

2015年のトレーニングセンター開設日には7,000名が来訪し、客室乗務員プログラムだけでなく、シンガポール航空全体に対する人気の高さ(と将来のスタッフに対する)魅力の高さをうかがわせました。

将来のリーダーの育成についても同様に力が注がれています。大卒者を対象にしたプログラムでは次世代リーダーたちに組織のさまざまな部署を定期的に異動しながら航空事業運営のすべての側面を経験させます。

「多くの部署を経験することによって組織を知り、新しい物の見方をもたらし、チームワークを育む長い関係性を築くことができる」とチェン氏は説明します。航空事業運営を学ぶための海外赴任を含め、国際経験を積めることも優秀な人材にとって魅力的な価値提案です。

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サービスとコストのバランス

競争の激しい旅行市場において、人材育成への投資とコスト抑制の必要性はどのようにバランス調整されているのでしょうか。
上質なサービスを提供し、比較的物価の高い国を拠点にしているにもかかわらず、シンガポール航空の人件費その他の営業費全般はかなりの競争力があります。航空業界の主要指標の一つ、座席キロコスト(CASK)は韓国や日本などの比較対象地域市場のフルサービスキャリアのおよそ4分の3です。

比較的新しい機材の使用によってメンテナンスコストを抑え、スタッフには固定部分と変動部分を含む魅力ある報酬パッケージが提供されています。客室乗務員チームは訓練、観察、定期的な話し合いを通じて、サービスを改善しながら、コスト抑制に対しても同じ厳しい目を持つよう促されます。

そしてお客様に関わるすべての物事についてはプレミアムという約束を果たしつつ、舞台裏の営業費の抑制については斬新なテクノロジーの活用が行われています。

「私たちは常にサービスとオペレーションのイノベーションに取り組み、お客様の満足度を高めています。競争の熾烈な航空業界においてコスト効率を高めるためのテクノロジーの活用はマストです。モバイルプラットフォームを介したチェックインやセルフサービスチェックインがその代表例です。お客様にとっては手早く簡単、私たちにとってはコスト効率が高まります」

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では企業はシンガポール航空から何を学べるでしょうか。多くの企業は人材が最大の資産だと言いますが、シンガポール航空は人材を第一に考えるからこそ、顧客を第一に考えられています。

人材に厳しい基準を求めながらも、その基準を満たすための支援も十分に行い、選考であれ教育研修であれ、仕事生活であれ、できるだけスムーズに行くようサポートします。

優秀な人材は組織の成功に対する自らの貢献をきちんと評価してくれる企業で働くことを望みます。他の航空会社はマーケットシェアを拡大するための積極的な価格競争を展開するゼロサムゲームを頼りにしているかもしれませんが、シンガポール航空はサービスカルチャー、エンプロイヤーブランド、それを支える従業員価値提案を構築し、コストと品質の両方で競争できています。

シンガポール航空でのエンプロイヤーブランディング

シンガポール航空は、2015年にシンガポールで最も働きたい企業に3年連続で選ばれ、ランスタッドアワードに殿堂入りしました。特に教育研修、マネジメント、財務健全性が高く評価されています。



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