【ランスタッドCHROが語る未来型組織のつくり方】  第2回 在宅勤務とジョブ型雇用への転換

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このシリーズはランスタッドのHRヘッドが経営の視点から人事の未来を語るコラムです。ビジネスの環境変化や社員のニーズをどのように組織開発に反映し、またコンフリクトやジレンマをどのように乗り越えているか、リアルタイムの試行錯誤をお伝えします。


少しずつ日常が戻ってきたと多くの人たちが感じていた矢先、感染者の数が増加してまたもや心配な状況になっています。当社も全員在宅勤務のポリシーは解除したものの、万一感染者や濃厚接触者が発生しても影響を最小限にするためのガイドライン「Safely back to work(安全な業務再開のためのガイドライン)」[1]を定め、社員の安全確保を図っています。

同時に都心の通勤電車は以前の混雑に近づきつつあり、その背景には在宅勤務から出社勤務への回帰があるとも言われています。急ごしらえの「名ばかり在宅勤務」の課題については前回のコラムで取り上げましたが、今回はさらにその根本原因について考えてみたいと思います。

 

疑心暗鬼解消の決め手は職務記述書

コロナ禍により多くの企業で在宅勤務が始まるや、マネージャーから「部下の業務の進捗をどう把握したらよいのか?」「目の前にいない部下をどう評価するのか?」「さぼっていないか?」という不安と焦燥の声があがった、という記事や調査をよく目にするようになりました。そのような環境下では部下たちも、在宅勤務時は上司がいつもより細かい報告をさせるのでモチベーションが下がる、上司に仕事をしているか疑われているような気がする、というような疑心暗鬼に陥りがちです。

このような疑心暗鬼は目標管理制度や成果主義を導入し、それに基づいて個々人の成果を評価するという形が機能していれば起こらないはずですので、これらについてもやはり「名ばかり」という部分があるのかもしれません。ポイントとなるのは職務記述書(ジョブディスクリプション)です。これを効果的に運用できれば、細かい確認はせずとも社員は自分の職務の目的と役割り責任を認識し、自律的に働くことができます。報酬も職務に期待される成果を生んでいるか否かで決まるので、職種にもよりますが出社しているか否かは一義的には関係ありません。

 

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メンバーシップ型雇用で職務記述書が無い理由

職務記述書がないという状況は、メンバーシップ型雇用の会社に多く見られます。メンバーシップ型とは新卒一括採用、終身雇用、年功序列賃金、退職金制度、ジョブローテーション、ジェネラリスト養成などに象徴される日本型雇用制度で、戦後日本経済の高度成長を下支えしました。

メンバーシップ型において中途採用は限定的ですので、新規事業や業務量増には在籍する社員を会社の意思で柔軟に配置転換することで対応します。従って職務範囲は厳格に定義しません。また業務は上司が都度部下に割り振りますので、あらかじめ個々の職務を定義しないほうが便利です。職務の範囲が曖昧なので、上司への「ほうれんそう」や同僚とのすり合わせは常時必要になりますが、阿吽の呼吸があればそれも苦にはなりません。職務が無限定な協業が中心であり、チームの業務が円滑に回ることや周囲との関係性構築における貢献と頑張りが評価されるので、職場にいることがアドバンテージになると言えます。

社員の育成や異動は会社が管理するものなので、社員にキャリア形成や職務への意識は希薄ですが、一社で一生安泰に勤められるので問題はありません。

 

ジョブ型への転換を困難にする「均衡状態」

以上のようなメンバーシップ型雇用の仕組みは、社員の自律性と職務の成果に基づく評価を必要とする在宅勤務においては裏目に出たようです。その結果が冒頭の、マネージャーの不安と焦燥の声として現れたのでしょう。またそれを機に、職務の定義と成果を重視し専門職による分業体制をとるジョブ型雇用への転換の必要性が叫ばれるようになったわけです。

しかしこれは何も今に始まったことではありません。人材流動性の低いメンバーシップ型雇用が、変化とイノベーションを求められる現代のビジネスのニーズに合わず制度疲労を起こしていることは、以前から指摘されていました。にも関わらずそこから脱却できなかったのは、メンバーシップ型雇用がかつて日本企業の競争力の源泉であり、企業内の人事制度のみならず労働法制や税制を含む社会の仕組みまでもがメンバーシップ型に最適化され、均衡を形成しているからです。そのため雇用の仕組みの一部を切り出して変更するのは極めて難しく(経済用語ではこれを経路依存と呼ぶそうです)、たとえ努力して何か一つ変えても元の均衡状態に引きずり戻されてしまうのです。

その典型例が女性活躍推進で、国際的にみても日本が未だに圧倒的な女性不活躍状態[2]なのは、かつて形成された均衡の磁力がいかに強いかを物語っています。

 

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ジョブ型から未来型へ

ジョブ型雇用は、中途採用中心、職務記述書をベースにした雇用契約、成果主義の報酬、人材流動性、社員のダイバーシティ、専門性の育成などから構成されますが、このジョブ型へ転換するのであれば、その転換は一挙に起こらざるを得ないのではないでしょうか。

企業が着手すべきは、キャリア形成の主体を会社から社員自身に移し、働き方の裁量も社員に渡すことでしょう。

マネージャーの役割りも大きく異なってきます。「指示待ち社員は困る」と言いながら、実は指示待ち社員を作っているのが当のマネージャーであることにマネージャーは自覚的であるべきです。マネージャーの仕事は、部下が仕事の目的を理解し自ら業務を組み立て、業績を挙げることを支援し、社内外で通用する専門性とスキルを養い、職業を通じて成長する環境と機会を与えることです。

その結果、自律的な社員がビジネスの変化と自身のキャリアを主体的にマッチングできるようになれば、まさに未来型組織だと言えます。

 

[1]参照:「Safely back to work(安全な業務再開のためのガイドライン)」ランスタッド株式会社

[2] 参照 p.9, p. 201,「Global Gender Gap Report 2020」by World Economic Forum

 

【ランスタッドCHROが語る未来型組織の作り方】

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筆者プロフィール

金子 久子(かねこ ひさこ)

ランスタッド株式会社 人事本部 取締役 兼 最高人事責任者(CHRO)

慶応大学卒、米国ジョージタウン大学交換留学。早稲田大学MBA(2016年首席卒業)
 
外資系銀行に就職、結婚後、障害のある長男の育児に専念するため専業主婦業を9年経験。
 
フリーランス通訳業に従事後、2004年アクサ生命に社内通訳者として入社。同社でダイバーシティマネージャー、人事能力開発部長、チーフダイバーシティオフィサーを歴任。アクサ損害保険に転籍、チーフHRオフィサーに着任。
 
2019年6月より世界最大級の総合人材サービス企業であるランスタッド株式会社にて現職。日本ブラインドサッカー協会副理事長。
 
これまでに、フリーランス、アルバイト、派遣社員、契約社員、NPO監事・理事、正社員、会社役員を経験。

 

 

 

 

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