世界の労働市場が直面する課題、教育現場の人材不足をどう解消するか

世界の労働市場が直面する課題、教育現場の人材不足をどう解消するか

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日本の労働市場では、多くの業界・職種で人材不足が課題となっています。みなさんの中にも、採用活動で優秀な候補者を集めるべく、あるいは従業員の離職を防ぐために、日々頭を悩ませている方が大勢いるのではないでしょうか。しかし働き手の不足に直面しているのは、民間企業だけではありません。今回は世界的に課題となっている「教員不足」に着目しました。各国は人手不足を解消するためにどのような対策を講じ、変化しようとしているのでしょうか。

 

民間企業だけでなく、公的機関でも不足する働き手

とにかく、人材が足りない。採用がどんどん難しくなっている……そんな状況を裏付けるように、2019年に人材不足が原因で倒産に至った企業は日本国内において426社で、2013年の調査開始以来、過去最多を記録したそうです(※)。特に従業員数の少ない中小企業にとっては厳しい状況が続いています。

※出典:『2019年「人手不足」関連倒産』東京商工リサーチ(2020/1/9)

こうした状況を受けて、働き手を確保するため、これまで「当たり前」とされてきた働き方の見直しや環境改善、雇用条件の多様化など、社員のエンゲージメント向上を見込んだ施策に注力している企業が多く見られるようになりました。

そして公的機関でも例外なく、働き手が不足しはじめています。それが顕著に現れているのが、教育現場です。

 

世界中で深刻な人員不足に直面している教育現場

2019年に東京新聞が行なった調査によると、関東1都6県・計39の自治体のうち、教員不足だったのは16自治体で、全体の3割超。公立小中学校に配置すべき教員が、2019年度はじめの時点で実に500人以上不足していることがわかりました。

※出典:「教員不足 公立小中500人 本紙1都6県アンケート」東京新聞(2019/10/20)

しかし、こうした傾向がみられるのは、日本だけではありません。世界の労働市場に目を移してみても、教育現場が深刻な人員不足に直面していることがわかります。

BBCの調査によると、イギリスでも教員資格のある教師が不足。教師1名に対する学生の割合を表す数値が、2010年の「15.5名」から、2018年には「17名」に増加。増加率は10%近くになります。アメリカも同様であり、Economic Policy Institute(EPI)は国内で11万人の教師が不足していると発表。特に貧しい地区において、大きな影響が出ているのではないかと推定しています。

世界的な教員不足。その背景には、どのような課題があるのでしょうか。

 

サービス残業が日常化。教育現場が抱える課題

歴史的にみると、「教育者」はどの国でも徳の高い職業として敬われてきました。しかし現代では、待遇を民間企業と比較したときの明確な差はなくなっており、労働市場において人を集める力が弱まっているのです。

米国・ EPIは、教師が職業的な人気を失ってしまった理由として、全体的に離職者の割合が高いこと、低賃金であること、労働環境が整っていないこと、研修等の機会不足などを挙げています。日本の場合は、教員の労働時間超過、すなわち「サービス残業」が大きな課題となっています。教育現場では通常の勤務に加えて、部活動をはじめとする課外活動の指導なども加わり、労働時間が大幅に増えている実態があるためです。

 

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2017年に文部科学省が実施した教員の勤務実態調査によると、1週間の勤務時間が60時間を超えた教員は小学校で33.5%、中学校では半数以上の57.7%に及んでいることがわかりました。日本では月80時間超の残業が「過労死ライン」と定められているにも関わらず、決して少なくない教員が、そのラインに近い働き方をしていることが分かります。

ここ数年、この現状は広く知られるようになり、キャンペーンサイトChange.orgでも署名運動が立ち上がっています。このことも、教員不足を助長しているものと考えられます。

こうした課題は教育現場だけに当てはまることではなく、民間企業にも共通するものです。特定の業界・職種に限らず、労働条件や環境に魅力がなければ、優秀な人材が離れてしまうのは自然なことといえるでしょう。

※出典:『教員勤務実態調査』(平成28年度)文部科学省

 

賃金引上げ、成長機会の提供.....各国の対策

一方、世界各国の教育現場では、教員不足の状況を改善するために、さまざまな施策を打ち出しています。まず多くの国で実施されているのは、教育に対する投資です。 

経済協力開発機構(OECD)が2018年に発表した教育概要レポートによると、加盟国の大半が2010年から2015年にかけて、入学者数が減少しているにも関わらず、教育への投資を増やしています。平均すると、学生1人あたり5%支出が増えたことになります。

また、賃金の引き上げ以外にも、海外では日本よりも柔軟な考えのもと海外では日本よりも柔軟な考えものと、さまざまな対策で教員不足に講じています。例えばインドでは、高等教育指導者に成長機会を提供しています。ニュージーランドでは、他の英語圏の国で教員資格をもつ人材にもアプローチを開始。そして、中国では農村部を中心に、退職した“元教師”の復帰を奨励しているそうです。

 

国際労働機関(ILO)は、教員の労働環境を改善するために必要な項目として、以下6つの対策案を挙げています。

1)適切な人員配置を行うこと

2)十分な給与と福利厚生を提供すること

3)教員が対応するクラスの規模が適切であるか見直すこと

4)教室(働く場所)の環境を整備すること

5)継続的な成長のため、研修やトレーニングの機会を提供すること

6)教育に関する政策議論に教員を巻き込むこと

 

実際に、政府が教育現場の労働環境を改善・強化し続けることで、質の高い教育システムを実現している国もあります。その代表格であるフィンランドでは、教員資格を得るには修士号以上を有することが義務付けられており、医師や技術者と同等の専門職として扱われています。

教育が未来の社会に与える影響は、非常に大きく、早急な改善が必要です。教員を魅力ある職業にするためにも、労働条件の見直しや、十分に働き続けられる環境の整備が不可欠でしょう。そしてそれは、他の職種や民間企業にも同様に当てはまることだといえます。これまで「当たり前のこと」と捉えられてきた仕組みの多くが、今、変化することを求められているのです。

 

本コラムは、ランスタッド・エヌ・ヴィーが制作したコンテンツをベースに加筆しています。

原文(英語のみ):teacher shortages grow worldwide.